遺言書の必要性
最高裁判所の司法統計年報によると、平成28年度に終了した家庭裁判所での遺産分割の事件数は、全国で12,188件、約半数の6,645件が調停の成立で終わっていますが、それまでに要した審理期間は6か月を超えて1年以内が最も多く2,251件、審理回数は6回から10回の1,936件が最多となっています。
しかし、審理期間が3年を超える事件・審理回数が21回を超える事件も138件あり、相続に関する紛争が、関係者の感情も絡んで長期化し、相続人等に大きな負担を強いている現実が見て取れます。
そしてこれらの件数は年々増加しつつあります。 相続財産額が少ないほどもめるともいわれ、相続人等が意地をかけて利害度外視でいがみ合う現実を揶揄して「争族」という言葉が生まれましたが、いまやこの「争族」は、日本語変換ソフトで普通に変換候補として表示されるほどになってしまいました。
「相続を争族にしない」と題した雑誌の特集記事などで必ず言及されるのが、遺言書の作成です。 日本公証人連合会の統計では、遺言公正証書の作成件数は、増加の一途をたどり、平成26年には10万件を突破し、それ以後も年間10万件以上の高い水準で推移しています。
遺言は、自筆証書でも作成ができ、死亡後の遺産の帰属を定めるだけの単純なものと捉えられ、さほど難しい法律的な検討が必要とは思われてきませんでした。
自筆証書遺言について、厳格な方式の定めがあるという点を留意する程度で、遺言の内容やその実現についての陥穽、紛争に発展する危険性の排除などについては、専門家が関与しても十分な検討がされずに後に紛争に至る例が見受けられたところです。
しかし、実は簡単ではない遺言書作成の問題が徐々に意識され、特に公証役場での遺言書作成における綿密な配慮はめざましく進歩していますが、公証人は遺言の内容について積極的アドバイスはできかねる立場にあります。
遺言者の願い、それを実現するについての方策、遺言者が見落としている紛争の火種などを見つけ出し、遺言者の願いが十分に実現できるように配慮するのは、相談を受けた専門家が果たすべき職責です。
相続に関連する家事事件・訴訟事件の可能性にも目配りし、できる限り紛争を予防する配慮をするためには、遺言書作成時から効力発生時の間の資産状況・人間関係の変化にも留意すべきことに注意が必要です。